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書籍紹介『中国雲南普洱茶の物語』

こんにちは、銀猫です。
今日は最近読んだお茶に関する本 中国雲南普洱茶の物語 を紹介していきます。

この本はいわゆる中国茶の入門のような本でなく、雲南の普洱茶に関する網羅的な内容の本でもありません。
紹介するのが少し難しい本ではあるのですが、私も先にこの本を読んだ人に「こんな感じで面白かったので読んでみて」と教えてもらって購入に踏み切ったという経緯があります。
そして、読んでみると他にはない内容で非常に面白かったので、勧めてもらえてよかった~!と感じました。

自分と同じように購入を迷ってる方の役に立てたらいいなーという気持ちで、思い切って紹介記事を書いてみました。

身近な書店では見つからないこともありそうなので、通販で買うときの参考にできる程度に、雰囲気や内容も軽く紹介しています。

中国雲南 普洱茶の物語の概要

「中国雲南 普洱茶の物語」出版社のページ(目次が見られます)
http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/557.htm

口絵と巻末の索引等を差し引くと、だいたい360ページくらいの書籍です。
写真や図のみで丸々1ページ使うこともあまりなく、ぎっちり文章が書かれているタイプでした。

お茶の本としてはやや高めの価格帯ですが、産地の農民から聞き取り調査をしているものは雲南の本では珍しく、内容としては非常に面白いです。
本の下地として、雲南のその当時の州政府の調査資料や茶関連の古典本の引用もあるため、中国語の書籍に興味がある方にもおすすめできます。
私も、この本をきっかけに読んでみたい本が増えました。

かなり長期間にわたって少数民族の土地に滞在されているようだったので、読み始めたときは「この著者はどういう立場でこういう調査をしたんだろう?」と気になっていました。
あとがきで仕事を引退された後に少数民族の研究を志した方で、雲南大学の訪問学者としてフィールドワークをしていたことがわかりました。

雲南の農民視点でのお茶の話がメイン

この本の主な内容は雲南の農民から見た普洱茶の話です。
普洱茶の本では、マニア向けの普洱茶鑑定本や大手茶廠に関わった方視点での本が多く、産地の農民視点での本はかなり珍しい印象です。
少なくとも、日本語で読める本としては初めてじゃないかな?

著者も「茶産地からの報告」という観点にこだわってこの本を書いているようで、地域の人が立ち上げた茶荘の話はありますが、大きな茶廠の話は歴史的に重要なターニングポイントのみに留められていました。

特徴的だと感じたところ

この本の大きな特徴として、お茶の話と同じくらいの文量で各山に住む少数民族の文化や歴史など民俗学的な話が語られている点があります。

これは、雲南が少数民族の土地であり、民族によって茶栽培や製茶方法が異なっていたという事情があるからです。
それぞれの民族に普洱茶ブームの前からの日常茶としての利用の仕方があり、同じ山であっても民族が違えば食生活・茶の利用方法が変わります。
雲南のお茶と民族の文化が密接に関わっているため、どちらも抜きにしては語れないんですね。

民族に関心がある方向けに書いておくと、特に大きく触れられていたのは

あたりで、生活様式や食習慣の話、茶との関わり方まで詳しく調査されています。(この話を読めることがこの本を買う価値でもあるため、ここではあまり詳しく紹介しません)
お茶に興味のない人でも少数民族に興味があれば面白く読めそうでした。

民族の暮らしを調査する中で普洱茶ブーム後の茶摘みや加工の工夫・新エリアの造成、各村のスタンスなどもわかります。
ブーム後は農民にとって「どうすれば取引価格を上げられるか?」という試行錯誤の時期でもあり、村として一致団結している産地はうまくいっているように見えました。
近隣の老曼娥から見た班章茶のブランディング施策なども書かれているので、日本の普洱茶好きには興味深いかもしれません。

全篇を通して読んでいくと、民族としてどういうルーツを辿ってきたか?茶との関わり方はどうだったか?によって、普洱茶ブームや茶業の近代化への対峙の仕方も異なっているように見えました。

近代化・普洱茶ブームとともに変わった茶作り

もともと民族が行っていた茶樹の管理手法や茶葉の摘み方、それぞれの葉の活用方法は現在の普洱茶づくりとは大きく異なっています。
普洱茶ブーム以降に雲南のお茶にハマった身としてはびっくりしつつも、古い時代の普洱茶が持っていた風味を理解するヒントになりそうでした。

あとがきでも触れられていますが、こと中国においては「中華民国時代の資料はあるが、閲覧することは許されない」という状況がままあります。著者も大学ではその壁に阻まれたようです。
その点でも、当時を知る各茶山の人々(元郷長や老いた農民たち)から聞く話や、地方に残されている記録を調査した本書の内容は貴重だと感じました。

雲南省の民族と雲南茶の歴史について理解を深められた

読み終わったあと、雲南全体の歴史の流れがより理解できたように感じました。
これまでも大手の茶廠や茶荘が出している本や記事は読んでいましたが大抵は「初代の商人が◯◯年に引っ越してきました」で始まります。
そのため、元々そこに住んでいた民族やチャノキの歴史について詳しく知るのは難しい。

この本では、旧六大茶山の農家に起きた歴史的なできごとや民族のルーツにスポットを当てているので、よく読むとそれぞれが密接に関係していることがわかります。
茶廠や茶荘による歴史紹介ではおそらく扱いにくい、少数民族の大反乱や漢化、貿易ルートの開通・政治的理由による遮断についても書かれています。
いずれも、茶山や集散加工地の隆盛に強く影響していました。

 

とくに印象深かったのは、後からできた集散加工地だけでなく、大きな茶山にも雲南省以外の人々が商人としてやってきて、その地で暮らしていることです。
それによって、民族ネットワークで外部との流通が発生し、茶業が商売として成り立っているケースも多いことがわかりました。

雲南はもともと少数民族の土地です。
しかし「少数民族の土地」であるだけでは茶は日常の飲み物でしかないため価値は上がりにくい。
六大茶山の絶頂期は清代。矜持はあるがかなり昔のことであり、ブームになるまでの長いあいだ現地の農民にとって茶業は他の農業のついででしかなかった、という要素もあるようです。
普洱茶は年月による価値の変動が強調されがちな分野ですが、現地の農民にとっては他の商業分野と同じように流通による価値向上の方が大きかったように見えました。

面白かったところ:鉄道や道路の延伸に伴う商業的変化

これは日本の一次産業でもあるあるですが、使える輸送手段とルートが変われば、生産と消費のスタイルも大きく変わります。
このテーマは書籍全体を通して書かれていたので、読みながら自分で年表を作ったり、中国のお茶好き向け記事を検索してさらに詳しく調べたりと、自分なりに整理してみると時代の流れがよりわかりやすくなります。

たとえば、普洱茶の流通ルートというとチベット行きの茶馬古道が有名です。
では、現代の普洱茶ブームとも地続きの南方に向けた出荷ルートはどうでしょうか?

この本では、鉄道の開通や道路の延伸、政治状況の変化に合わせて、時代に合わせた様々な出荷ルートが存在したことが紹介されています。
歴史的にはたった20年しか存在しなかったものの、六大茶山の農民にとって商業的に大きな転機になった出荷ルートもありました。
農民の工夫による新出荷ルート開拓によって、集散加工地としての思茅が廃れていった辺りなどはまさに時代の流れが感じられます。

商人の話にはなりますが、大理や勐海エリアの隆盛もこの鉄道網の整備と深く関係していました。
南方だけでなく、チベット行きの茶馬古道も近代化に伴って変化していった経緯があると理解できるので、この分野に興味がある方にはとくにおすすめです。
(これは興味深いテーマで紹介が長くなってしまったので、書籍紹介とは別で改めて記事にする予定です)

辺境茶の価値は誰が決めたのか?

現代の普洱茶好きがよく聞く価値観として「辺境の茶ほどおいしい」というものがあります。正直、ものによるだろ!と思いますが…
これって、プーアル茶ブームで香港あたりの商人がセールストークとして言い始めたんじゃないか?と思っていたのですが、この本の中でもっと歴史が古いことがわかりました。

中華民国の時代には既にチベット茶商の間で「辺境の茶(原山茶)こそが本物の普洱茶」という価値観があったそうです。
そして、辺境の茶を求めてはるばる易武にやってきたこともあるといいます。
馬帮によって雲南の茶が運ばれた先、我々から見るとよっぽど”辺境”の麗江で雲南の辺境の茶に高い価値がついていたというので面白いです。

 

ちなみに、現代の普洱茶好きが「辺境の茶」というとき、それは民族特需商品の辺茶(チベット民のために政府に管理され、製造することが義務付けられている茶)を指すことがあります。
しかし、このチベット茶商がいう辺境茶というのは今で言う無公害茶や野生茶のニュアンスです。
どちらから見たか?による変化ですが、言葉が指すものが年月とともに少し変わっていて面白いですね。

2000年ごろに出版された蔵客という本では茶の輸送をした馬帮のことが書かれていると言うので、その本も読んでみたくなりました。

この本をおすすめできる人

この本は結構ずっしりしていて、読む人を選びそうな内容でもあると思いました。
読み終えてから改めて、どんな人にならこの本をおすすめできるだろう?と私自身も考え込んでしまいました。

ですが、人によっては「タイトルから想像していなかったけど、まさに自分が求めていた内容だ!」ということもありそうです。

私がこの本を熱烈に勧めたいなと思うのは、主にこんな人かな?ってことを書いてみます。

エッセイ調のタイトル・表紙デザインですが、内容は民族学のフィールドワーク的な部分が多いです。
ところどころ旅行記的なところもあるので、お茶と民族に興味のある旅行好きにも若干おすすめできそうです。

あったほうがよさそうな前提知識

必須ではないですが、知識があったほうがよりスムーズに読めたり、面白く感じられそうな要素もいくつかありました。

※現在は「基諾山」

私も少数民族の文化や出典となった調査資料など、詳しくない分野については調べて確認しながら読むようにしていました。
基本的には、疑問に思った部分は調べながら読めば大丈夫だと思います。

一方で注意が必要なのは、六大茶山や有名な産地・集散加工地などは、序盤から知っている前提で書かれていることです。(雲南茶好きには有名だからですね)
いずれも検索すれば出てくる内容ではありますが、このあたりの違いがわからないと最初から最後まで調べることが多すぎて読むのが大変かもしれません。

 

・易武山と布朗山(班章・老曼娥)の特徴について
これは、風味と価格差をなんとなく理解していれば大丈夫かなと思います。
とくにこの2つの茶山はどちらも著者が長期滞在しており、途中で値付け・茶の味わいの好み・商業的な方針の話が出てきます。
込み入っていますが、この2つの茶山の特徴を知っておくと背景を含めてすんなり理解しやすいです。

もちろん、この本を読みながらそれぞれの地域の普洱茶を飲むと楽しいです!
私は夜な夜なこの本を読みながら、その章で書かれている地域の普洱茶や晒青緑茶を飲んでいました。
文章から雲南のお茶の香りがしてくるような気がして、ついついお茶が飲みたくなる瞬間があります。
ぜひ普洱茶を手元に置いてこの本を読み始めてみてください。

終わりに

この本を通じて初めて知った雲南の農民の茶業用語や価値観がたくさんありました。

雲南の少数民族とその農業の話が私には何より面白かったのですが、一部分のみが知られると過去のブームのときのように誤解が加速しそうな話も多々ありました。
「この本を読んでその生活や文化とともにじっくり知ってほしいな」と思ったので、その面白さや驚きを伝えたい気持ちを抑えて今回の紹介では大きく割愛しています。

全体としては、この本でないと読めないような話が多いので、すでにお茶の本を色々と持っている方でも新鮮みをもって読み進められる内容だと思います。
切り口としても斬新なので、本の内容を踏まえてさらに気になった分野を調べたり参考書籍を読んでみたい人向けでもありました。

厚みがあるのでこの本を買ってみるかどうか悩んでいる方も多いと思いますが、雲南のお茶が好きならきっと産地の話として楽しめると思います。
ぜひ、普洱茶を飲みながらのんびり読んでみてください!

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